アプリの価格設定にはTierというランクが使われます。
Tier 1 は 0.99ドル、120円。
Tier 2 は 1.99ドル、240円。
Tierひとつごとに1,200円まで120円単位で上がっていきます。(1,200円より上は、1,300、1,400、1,600と刻みが変わります)
どうしてこういう仕組みを使っているかというと、全世界で販売していくのに、それぞれの国で価格設定をしていたら大変な作業量になってしまうので、Tierを決めるだけで全世界一律に価格設定ができるようにしているわけです。
これにより、アプリをセールする際には、Tier 4からTier 1に変更することで、アメリカでは3.99ドル→0.99ドルに、日本では480円→120円と各国の価格を連動して変えることができるのです。
Alternate Tier
有料アプリの最低価格は120円。
その上は240円と言いたいところですが、150円のアプリもあります。
低価格帯にはAlternate Tierという別な価格設定が用意されているのです。
これは何のために用意されているかというと、心理的に売りやすい・買いやすい価格に調整するためのもので、例えばTier 1はアメリカでは0.99ドルで固定されていますが、それをそのままユーロ圏に適用すると1.09ユーロという微妙な価格になってしまう。もし0.99ユーロにできるならちょっと買いやすくなるので、それをできるようにしたのがAlternate Tier。
このAlternate Tierは日本だと現在150円、250円、400円、500円、600円と、なんだか中途半端な金額に見えてしまいますが、これはTier 1が85円だった時代には100円、200円、300円、400円、450円という、きりのいい数字でした。
2013年10月に85円→100円、2015年4月には100円→120円へと価格改定が行われたのに伴い、Alternate Tierも値上がりしたという経緯があります。
11,800円は中途半端な価格ではない
少し話は変わりますが、先日Engadgetに「iTunesで21万2400円を不正利用された」という内容の記事が公開され話題になっていました。
被害に遭われた記者の方は、犯人がiTunesで11,800円のものを複数回購入している点に注目して犯人像を推理されているので、その一部を読んでみましょう。
犯人は1万1800円で何を買ったのか?
さて今回の件ですが、一体犯人は何に使っていたんでしょう。いろいろとネットで調べてみたところ、1万1800円という金額はポケモンGOの最大課金額と一致しているとのこと。確かに1万円+消費税というわけでもなくキリがいい割には中途半端な額で、かつ毎日同じ額を利用していることを考えると、合点がいきます。
https://japanese.engadget.com/2018/04/11/itunes-21-2400/
この推理には2つの間違いが含まれていますが、どこだかわかるでしょうか?
1つめはTierが関係してきます。
11,800円というのはTierでいうとTier 60という価格帯になります。Tier 60はドルだと99.99ドル。じつにきりのいい数字です。
心理的な障壁も生まれてきますし、iTunesプリペイドカードの額面との兼ね合いもありますから100ドル以下に収めるのは合理的だと言えるでしょう。
Pokemon Goは世界展開を基本として作られているわけですから、ドル基準の価格設定にしているわけです。
アメリカで販売されているガジェットが99.99ドルだったとして、日本では1万円を超えてくるのは当たり前のことです。この話はそれと同じ。
11,800円が中途半端な額だという認識になるのは、海外を基準とした価格設定を知らないからに他なりません。
2つめは11,800円という額をPokemon Go固有のものだと思い込んでしまった点です。
例えばアイドルマスター シンデレラガールズやグランブルーファンタジーなど、ちょっと探せば他にも11,800円に設定されている有名タイトルが出てきます。
11,800円が中途半端な額だと思い込んでいたせいで、検索して偶然見つけたPokemon Goと関連づけてしまったんでしょうが、実際には価格のみを根拠として特定の名前を挙げるようなことはできないはずなのです。
海外市場を考える時には99.99ドルというのはひとつの目安になりますが、日本市場をメインターゲットに考えて作られているゲームの場合には天井として9,800円が設定されていることが多いです。
当然ユーザーもそのほうが買いやすいですから、ゲーム会社としてもそうしない理由がありません。
しかし、日本市場がターゲットになっているゲームでも11,800円に設定しているゲームがちらほらと存在するわけです。それはなぜか。
これは先ほども書いた、2015年4月の価格改定が関係してきます。
価格改定によるTierの変更
2015年4月の価格改定が行われる前まではTier 60は9,800円でした。
それが為替変動に伴う価格改定で11,800円に値上がりしたわけです。
日本の事業者にとってはもともと円を基準にして決めていた価格ですから、いきなり2割の値上げというのは大きすぎました。
なのでTierを変更して、価格を据え置こうという動きが様々なアプリで見られたのです。
Tier 60($99.99)のままだと9,800円→11,800円になってしまうので、Tier 56($79.99)に変更して日本での価格を9,800円に戻した。
これならTierを下げたところで日本市場での売り上げには影響しません。
このときにTierを下げずに日本国内での値上げとなったアプリもあるわけですが、アプリの販売時期や、ライセンサーとの契約、海外での戦略などの絡みもあって、単純には語れません。
おわりに
いろいろと書いてきましたが、こうした経緯を踏まえると11,800円が決して中途半端な金額ではないということがわかっていただけたと思います。
2015年4月以前から販売されているアプリや、海外展開を見据えたアプリでは11,800円という金額設定がされているものがありますが、これをどう見るかはTierという仕組みと価格改定の過去を知っているかどうかで見方が変わることでしょう。
2014年にリリースされたアイドルマスター シンデレラガールズは最高額が11,800円です。
対して2015年9月にリリースされたアイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージでは9,800円となっているのもこのあたりの違いから来るものでしょう。
Tierごとの各国での価格を知りたい方は以下のサイトをご覧ください。
A better App Store Pricing Matrix
サブスクリプションに関してはまた違った価格設定が可能で、こちらは50円、100円、120円、150円、180円、200円、240円とかなり細かく刻むことが可能になっています。
価格の一覧は以下のサイトをご覧ください。
App Store Subscription Pricing
50円ってガリガリ君より安い。
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クレジットカード不正使用の被害を報告したEngadgetのライターさんはこれまでパスワードの使い回しをしていたそうで、前回被害にあってからも「覚えられなくなるから」という理由で一部のパスワードの使い回しを続けていたりと、2度目の被害にもまったく同情できない有様です。
どこかから漏れてしまうと芋づる式にいろんなアカウントが被害に遭うのでパスワードの使い回しはやめましょう。また2段階認証や2要素認証を適切に導入して被害に遭わないよう気をつけてください。
アプリをダウンロードして利用するだけの一般ユーザーとしては非常に面白い話でした。
説明するの上手すぎですw
とても参考になりました!