iPhone Xを盗まれた高校生がケースに仕込んだGPSで犯人の自宅を特定した、というツイートがバズっていました。
Twitterでも書きましたが、スマホケースに仕込んでバレない小ささのGPSモジュール+通信モジュール+リポバッテリーなんてものは市販されていませんし、自作したにしても既存のモジュールを組み合わせたものではスマホケースに隠せるサイズには決してなりません。
ご本人の発言によると「ケースの裏にマイクロチップ仕込んでる」ということでしたので、生暖かく見守ることにしてこれ以上語ることは無いんですが、一方で現実のGPSトラッカーのニーズは高いものがありますので、そのあたりについてちょっと掘り下げてみましょう。
さて、手が出せる範囲でのGPSトラッカーにはどんなものがあるでしょうか。
自転車の盗難に備えて追跡できるようなデバイスを作るのは、なかなか厳しいことが見えてきます。
これまでの歴史を辿ってみましょう。
TrackerPad
2015年にはTrackerPadという100円玉サイズのGPSトラッカーがKickstarterに登場しました。
TrackerPad – Sticky GPS tracker pads (Suspended) by TrackerPad — Kickstarter
嘘だろ?!!ってくらい薄く小さくて、どこにバッテリーが入るんだ???しかも無線充電!?といろいろと驚くべき内容でしたが、やはり嘘でした。
ASCIIやCNETなどが紹介していましたが、実現可能かどうかを検討せずに、作り手側の売り文句だけを鵜呑みに喧伝するクラウドファンディング紹介記事はとても多いので気をつけないといけません。
Magpie
2017年にはMagpieというGPSトラッカー(3.85cm×3.85cm×0.93cm)がKickstarterに登場しました。
Magpie: the smartest, truly global GPS tracker around by Magpie — Kickstarter
https://www.youtube.com/watch?v=SU4fWhSV6yc
月額5ドルで使えるトラッカーを5ドルで販売する(しかも1ヶ月分の利用料が無料)という、ずいぶんと攻めた戦略でしたが、計画は頓挫して返金となりました。
企業向けにシフトしていくと宣言していましたが、いまはWebサイトも無くなってしまってどうなっているのやら。
しかしなかなかよいサイズ感に導入しやすい価格設定でしたから、実現してほしかったです。
Connected Cycle Pedal
2017年にIndiegogoに登場したConnected Cycle Pedalは自転車のペダルに組み込んだGPSトラッカーというなかなか面白いものでした。
closed campaign | Indiegogo
既存のペダル部分を交換して設置し、電源はペダル軸の回転で発電をするため充電も不要でした。
これも残念なことに実現には至らず、プロジェクトは頓挫します。
しかしそこで終了とはならずに、代わりに単3電池x3を使ったサドル下に設置するボックス型のデバイスが登場しました。
ペダル型デバイスの代わりとしてそれを提供する(もしくは返金)ということでしたが、蓋を開けてみればセルラーで位置情報を送信するのではなくWi-Fiのみでの通信というわけのわからないものになっており、コレジャナイ感あふれるデバイスと化してしまいました。
Ping
現在はPingというGPSトラッカー(4cm×4cm×1.2cm)がIndiegogoから登場しています。
Ping – The World’s Smallest Global GPS Locator | Indiegogo
これはMagpieと似たような製品ですが、本体が100ドル程度、月額3ドルということで方向性はちょっと違います。
当初の予定から遅れに遅れていましたが、ようやく一部の製品出荷までこぎつけて、一般からのプレオーダーも開始しています。
このサイズにGPSとセルラーを積んでバッテリー寿命は3ヶ月以上って書いてある段階で怪しさがにじんでいましたが、実際の製品を受け取ったユーザー曰く「セルラー通信ではなくBluetoothのみだった」とか、「数日しかバッテリーがもたなかった」という報告が入っておりまして、なんだか雲行きが怪しい。
まだしばらくの注視が必要でしょう。
jaico/Bsize GPS BoT
しっかり製品化され、市販されているデバイスとしては、JR西日本がみまもりサービスとして提供しているjaico GPS BoT(5cm×5cm×1.9cm)が現実的な選択肢でしょう。
jaico GPS BoT:生活・くらし:JR西日本
これはBsize社が提供しているBsize GPS BoTと同じもの。
GPS BoT (AIみまもりサービス) 月480円でAIが24hお子様を見守り | Bsize
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BsizeといえばミニマルなデザインのLEDライトSTROKE2(グッドデザイン賞、レッドドットデザイン賞、iFデザイン賞などを受賞)や、天然の杉を加工して作ったワイヤレスチャージャーのRESTなど非常にレベルの高い製品を送り出している新横浜の会社です。
興味がある人はこちらの記事もどうぞ。
高品質デザインのデスクライトで挑戦したひとり家電メーカー ビーサイズ八木啓太代表 – 週刊アスキー
STROKEの細部にまでこだわったデザインは本当に素晴らしいので、実物を触れる機会があったらじっくりと観察してみるといいです。
ほしいけどお高いのですよね。
IKEAはSTROKEと似たコンセプトの製品HÅRTEを販売していますけど、ほんとコンセプトだけでディティールにこだわらないとこんなにも変わってしまうのかと勉強になります。価格の面でも。
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さてこのGPSトラッカーは本体価格4,800円、月額利用料480円(+税)と、かなりいい線をいっています。
サイズはなんとかもうひとまわり頑張ってほしいですが、許容できる範囲かなと。
GPSトラッカーに必要なのは位置を測位するGPSモジュール、その位置情報を送信する通信モジュール、バッテリーが必須となりますが、実はそれ以上にその情報を記録しておくサーバー、サーバーの情報にアクセスするためのWebサービス/アプリも重要なポイントです。単にマイクロチップひとつで実現できるものではありません。
Bsize GPS BoTはアプリも良くできていて、過去の移動履歴を辿れたり、最新の位置をタップするとストリートビューに切り替わって現地の確認がしやすくなっていたりと感心させられます。
実際にデバイスを購入していなくてもデモモードとして使用感を確認できるのも素晴らしい。アプリを起動したらすぐ「ログインしてください」とか、「デバイスを登録してください」と表示されてお試しができないアプリというのは非常に多いのですが、このアプリは非常にユーザー目線で作られており見習うべき点が多いです。
みんなが待ち焦がれていた夢のデバイスを現実的なものにきっちり落とし込んできたなという印象です。
まぁ、実物を触っているわけではないので、あくまで私の印象であってレビューではありませんからね。
Bsizeは人感センサーを詰んだ人感BoTや、ビーコンゲートウェイのBeaconBoT、開発向けの汎用ProtoBoTなどの製品が予定されており、今後も楽しみです。
おわりに
今回紹介したようなセルラー通信ができる小型のGPSトラッカーというのは、誰もが待ち望んでいたデバイスなのですが、コンシューマー向けの製品というのがなかなか登場してきませんでした。
この手のクラウドファンディングに色々と手を出しては、毎回痛い目を見てきた方もいらっしゃるでしょうけど、日本で手の出しやすいまともな製品が出てきたのですから喜ばしい限りです。
jaico/Bsize GPS BoTには特定の場所に到着・出発したら親のスマホに通知を送るなんて機能もベータとしてあるそうです。駐輪した自転車が勝手に動かされたときに通知を送るなんて使い方もできるでしょうから、自転車ユーザー向けにも訴求していけるでしょう。実際何十万もする自転車をお持ちの方なら、月額数百円なんて喜んで支払うでしょうし。
高価な楽器とか機材車とかにもニーズがあるはず。
ランニングコストは年額で6,000円程度ですから、4,000円もするわりに8ヶ月でバッテリーが切れて買い直しになるBluetoothタグと対して変わりません。
はやく店頭販売をはじめて、誇大広告なBluetooth紛失防止タグを駆逐してほしいものです。
ちょっと話は変わりますが、SORACOM Air SIMを使うとGPSの無い端末でも位置情報の取得ができるようになったそうで、これも面白そうです。
SORACOM Air SIM で基地局を基にした位置情報測位をサポート開始しました – SORACOM Blog
誤差はそれなりに大きくなるので、これまで紹介してきたデバイスと同列には語ることはできませんが、GPSがなくてもおおまかな位置確認ができるのはいいですね。
そんなこんなでiPhone関連の話題から派生したGPSトラッカーの話でした。
面白く読んでいただけたなら幸いです。
私の把握している範囲での話なので、他にもこんな面白いGPSトラッカーがあるよ(あったよ)という情報がありましたら教えてください。
マイクロチップのGPSで居場所を突き止めるなんてのは、残念ながら未だスパイ映画の話。
今もまだ販売されているかわかりませんが、子供向けに auから発売された「あんしんGPS」はなかなか便利でした。スマホなどから問い合わせると居場所がわかるため、小学校入学したばかりの娘に持たせて重宝しました。
当時は本体0円、24ヶ月無料のキャンペーンをやっていたため、バイクの盗難検索用に仕込んでいる。というような話もよく聞きました。
https://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/consumer/lineup/kys11/spec/index.html
https://www.au.com/mobile/charge/gps/