モバイルバッテリーの性能をどう計測評価するべきか

先日10,000mAhのモバイルバッテリーを購入しました。

出力できる電力量や、充電に必要な電力量を計測しているのですが、そこには見落とされがちなポイントがあります。
今回は計測に際して何に気をつけるべきなのかということを検討していきたいと思います。

まず10,000mAhというのがこのモバイルバッテリーの公称容量ですが、バッテリー自体の電圧が3.7Vですので37,000mWhとも表記することが可能です。
計算上都合がいいので今回は37,000mWhという数値を基準にして書いていきますが、なぜmAhを使わないのかということはまた別の記事で。

さて、37,000mWhが今回の基準となる100%の容量です。
購入直後のモバイルバッテリーは中途半端に充電された状態だったので、満充電をしてから2.4Aで放電したところ34,085mWhを取り出すことができました。
これは公称容量の91.8%になります。(34,085÷37,000=0.918)

つまり、このモバイルバッテリーは公称容量比91.8%の性能ということになるわけです。
これでおしまいにするのが一般的なサイトで行われている計測ですが、うちのサイトではもう少し踏み込んでみましょう。

 

出力する電流を変えたらどうなるか

1回目は2.4Aでした。
2.4A
34,085mWh 公称容量比91.8%

さらに条件を変えたりしながら複数回計測してみます。

1A
35,637mWh 公称容量比96.3%

2.4A
34,365mWh 公称容量比92.8%

0.5A
36,875mWh 公称容量比99.6%

1A
35,979mWh 公称容量比97.2%

誤差はありますが、出力アンペア数が高いほど取り出せる電力量は少なく、アンペア数が低いほど電力量が多くなる傾向が見て取れます。
0.5Aで放電したときと、2.4Aで放電したときでは、7.8%もの差が出ています。

ではこの結果を踏まえて考えてください。
このモバイルバッテリーの性能を1回目のテスト結果である公称容量比91.8%とするのは正しいでしょうか?

 

検証の重要なポイントは条件の決定にある

0.5Aなんて実態に即していない条件で計測するのはフェアじゃないと考える方もいらっしゃるでしょう。
ではどの条件でテストした結果ならば妥当であるのか。

実際にiPhoneを充電するときに計測をするというのが理想ではありますが、iPhoneはその端末によってバッテリーの状態や充電に使われる電流値が変わってきます。
例えばiPhoneを買い換えたら、それは計測に使う基準が変わってしまうということになるのです。
そんなものを将来的にも一貫性のある指標として扱うのは無理です。

何かを検証する時にもっとも時間が掛かるのが、この計測条件の設定です。
数値を単に計測するだけならとても簡単です。
でもその数値が何を意味するのか、どういう条件で扱うべきものなのかをしっかりと検討していないと、ちゃんとした数値が出てきません。

同じ計測器具を使っても、どのように条件設定をして、どのように数値を読み解くかによって、まったく異なった結論になってしまいます。
単に計測するのは簡単ですが、得られた数値が妥当なものであるかはまた別な話です。

検証記事というのは実際に計測して得られた数値を使うため、とても信用されやすいものですが、その数値が正しいものであると鵜呑みにするのは危険です。
まずはその数値が妥当であるのかを疑う癖を付けましょう。

 

出力を上げると取り出せる電力量は減少する

時速50kmだとリッター20km走れる自動車が、時速100kmでは燃費が悪化するのと同じようなことです。

出力性能の低いモバイルバッテリーを計測するときには5V/1A(5W)で計測し、出力性能の高いQuick Charge対応のモバイルバッテリーでは12V/1.5A(18W)で計測するというようなことをやったらどうなるでしょうか。

もちろん公称容量比が低く出るのは、性能が良いはずの後者のほうです。
正しく条件を揃えて計測をしないと、性能が良いものであるほど逆に性能を低く見積もってしまうことになりかねないのです。

そして、これは実際に多くのサイトで起きているであろうことなのです。
これを考慮せずに計測したデータは果たして信頼できるものになっているでしょうか?

 

おわりに

ただ計測した数値を見るだけでは正しい結論が得られません。

どういう条件で、どういう基準を設ければ、一貫性のあるデータを得られるか。
それを見つけ出すのがもっとも時間のかかる重要なポイントです。
その上で計測をしてデータを集めていく。

うちのサイトでは1A時のデータを複数の製品を比較する際の基準として扱いますが、2Aや2.4Aなど、その製品が対応している上限での値も計測して付記していこうと考えています。

さて、最後に12V/1.5A(18W)で放電した際のデータも載せておきましょう。

6回目 12V/1.5A(18W)
31,502mWh 公称容量比85.1%

だいぶ低くなりましたね。
6回分の測定値をグラフにして見るとこんな感じになります。

同じ製品を計測しても、このようにやり方次第で全然違った結果になってしまうことがおわかりいただけたかと思います。

今回の計測結果をもって、公称容量比99.6%と評価するのも、85.1%と評価するのも、どちらも間違いではないし、嘘もありません。
でもその数値が妥当であるかはまた別なのです。

9 COMMENTS

Zinc

テスト条件を明示するのは最低条件ですね。テスト回数や個体差(抽出、サンプリング)の問題もありますしね。

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maxi

▼Zincさん
個人でどこまでやるべきかってのは難しい問題ですね。
n=1が良くないのはわかっていても、テストのためだけに数千円のものを複数台購入するのは難しいですし、何十回もテストを重ねるのは厳しい。
せめてテスト環境と条件を整えて、計測自体にブレが出ないように努めるってところで。
冷却はPCファンをUSB接続に改造したものを使っています。

 

▼名無しさん
私自身も勉強しながらなので、間違っていることはあるかもしれません。(もちろんそうはならないように勉めていますが)
一緒に勉強していきましょう。

 

▼名無しさん
いつも読んでくれてこちらこそありがとうございます。

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Zinc

もちろんです!maxiさんに完璧なテストをしろって要求した訳じゃないですからね!そこは誤解無きようw

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maxi

できれば完璧なテストをしたいもんですけどね。
ただ電気にも数学にもタッチせずに生きてきた文学部人間なので、間違ってはいないだろうかと不安になることも多いです。
もし疑問に思う点があれば遠慮なく教えてください。

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Kohei Miura

こんにちわ

いつも興味深く読ませて頂いております。

結局のところ昇圧回路の設計や、回路素子やコネクタの抵抗を考えると、大電流は不利ですよね。
5Vへの昇圧と、12Vへの昇圧は、同一の昇圧回路のなのか興味深いです。

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ゆきのぶ

初めまして。最近ブログを読ませていただくようになりました。

>出力を上げると取り出せる電力量は減少する
鉛蓄電池ではその傾向が顕著で、「5時間率」「20時間率」などと測定条件も含めて提示されることが多いですが、リチウムイオン電池も同じような傾向はあるんですね。データも含め、大変参考にになります。

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